1)ARFによる細胞死誘導機構の検討 ARFはMDM2を不活化してp53の活性を増強することが知られているが、p53はアポトーシス関連遺伝子の発現調節を行う転写因子であることが知られている。アポトーシスは細胞のプログラムされた自殺機構として発生過程の器官形成、ウイルス感染やDNA傷害によってダメージを受けた細胞の除去に重要な生理的経路として認識されている。そこでARFノックアウトマウスにおける腫瘍の発症に細胞死誘導機構の失活が関与しているかを検討するために、ARFによる細胞死誘導の分子機構を検討した。ARF/p16-null細胞への導入実験によって、ARF-p53依存性にBcl-2が減少し、BaxはARF非依存性・p53依存性に血清除去で誘導されることが示された。ARF依存性アポトーシスはミトコンドリアからcytochrome cを細胞質に放出させ、ミトコンドリア膜電位を低下させた。またこのアポトーシスはカスペース阻害剤のz-VAD-fmkで阻害され、caspase 9またcaspase 3の活性化を伴っていた。以上の結果から、ARFはp53を介してanti-apoptotic蛋白であるBcl-2の発現を抑制し、血清除去によるpro-apoptotic蛋白であるBaxの発現増加と共調的にアポトーシスを誘導し、このアポトーシスはミトコンドリア依存性であることが示された。 2)ARFによるp53非依存性の発癌抑制の分子機構 ARFによる発癌抑制は、p53依存性の機能がこれまで報告されてきたが、p53非依存性のARFによる発癌抑制が存在することが報告されている。このARFによるp53非依存性の発癌抑制の分子機構を解析するために、ARF発現プラスミドを293T細胞(SV40T抗原によってp53が不活化されている)に導入したところ、アポトーシスが誘導された。この際p53およびp53下流遺伝子群のp21Cip1およびMDM2は誘導されなかったことからARFはp53非依存性にアポトーシスを誘導することが確認された。またミトコンドリア膜電位の低下を伴っていたことからARF依存性/p53非依存性アポトーシスはミトコンドリアを介して作用していることが推測された。このp53非依存性アポトーシスの誘導はARFのC末を欠失したARFN62では生じなかったことから、これまで報告されていないARFのC末の機能の存在が示唆された。このp53非依存性アポトーシスに関わる新たな分子を解析するために、DNAチップ法で発現量に変化が見られる分子をスクリーニングしたところ、細胞周期・細胞死に関わる分子がいくつか検出された。
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