研究概要 |
ARFは多くのヒト腫瘍組織、腫瘍細胞株で不活化されている細胞癌化抑制にとって重要な癌抑制遺伝子である(kamijo T et al.,Cell 1997;Kamijo T et al.,PNAS 1998)。これまでARFゲノムDNAの欠失が主な不活化のメカニズムとして知られてきたが、近年大腸癌、腎細胞癌、胃癌、前立腺癌などの多岐にわたる悪性腫瘍でARFプロモーター部位のメチル化による転写抑制が報告されており、発癌抑制における意義がますます重要視されている。また近年報告されたp16INK4aノックアウトマウスにおいても、p16INK4aよりもARFの役割の方が発がん抑制に重要であることが示唆されている(Nature,413:83-91,2001)。ARF依存性細胞死誘導機構の解析は生体にとって極めて重要な発癌抑制機構を明らかにする可能性があり、我々はこの解析に着手した。ここで重要な点は、ARF依存性細胞死誘導には癌抑制に最も重要な分子であるp53に依存性の機構と非依存性の機構が存在することが遺伝子改変マウスによる実験によって示唆されていることである。そこでp53野生型の細胞と不活性化されている細胞のそれぞれを用いて、ARF依存性細胞死誘導の分子機構の解明を行った。 癌抑制遺伝子産物ARFによってもたらされる細胞死誘導の分子機構を解析した結果、ARF導入に加えて血清除去によるストレスをもたらすと、ミトコンドリアからのチトクロームCの細胞質への放出・ミトコンドリア膜電位の低下が生じ、引き続いてカスペース9および3が活性化されてアポトーシスが誘導されることを明らかにした。この際ARFはp53依存性にアポトーシス抑制分子であるBcl-2のミトコンドリアにおける発現を低下させ、またp53非依存性にBax/Bimの発現増加をもたらすことを究明した。 ARF依存性・p53非依存性細胞死誘導機構の解析においては、ARFのC末部分がp53不活化細胞においてアポトーシスをWtより強く誘導することを見出した。このアポトーシスはミトコンドリア非依存性でありMAPKのリン酸化を介してCaspase7の活性化がもたらされた。さらに、Caspase7の活性化がMAPKのリン酸化へフィードバックしていることが示された。
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