研究概要 |
癌抑制遺伝子産物ARFにょる細胞死誘導機構の解析をARFの培養細胞における発現によって行った。SV40Tによってp53/Rb経路が不活化された細胞においてARFは細胞死を誘導し、これがミトコンドリア依存性のアポトーシスによるものであることをcytochrome cの放出、caspase 3/9の活性化によって確認した。この際ARFがSV40T蛋白に結合することが確認され、SV40T蛋白の機能を不活化することによってP53およびRbの活性化、蛋白量増加が生じて上述のアポトーシス誘導が起こることが推測された。我々はMDM2がRbと結合し、Rbのユビキチン・リガーゼとして作用してこの分解を制御していることを明らかにしており(Uchida C et al.,EMBO J,2005)、このp53およびRbの蛋白量増加についても、p53およびRbの共通のユビキチン・リガーゼであるMDM2のARFによる不活化が関与していると思われた。 SV40 virusは小型DNAウイルスに属するポリオーマウイルスである。SV40は感染サル細胞を用いて作られたアデノウイルスワクチンによって、世界中で数10万人がSV40の混入したワクチンを投与されたことで有名である。このSV40による関与が推測される悪性腫瘍が発症していることが近年報告されている(Am J Epidemiol.2004,160:306)。SV40 virusによる発がん機構においてSV40T蛋白のp53およびRbの不活化が重要な機序を占めていることは明らかであるが、このような腫瘍細胞で不活化されていたp53/Rb経路が、ARFの導入によって再活性化することが我々のデータから明らかになり、分子標的治療の新たなターゲットとなりうることが示された。
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