研究概要 |
ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染は多くの上皮性腫瘍の形成に関与しており、特に子宮頸がんに関しては主要なリスクファクターであると考えられている。がんウイルスであるHPVの感染、および複製機構を分子レベルで明らかにすることはがんの予防治療に貢献すると考えられるが、このウイルスの生活環は上皮細胞の分化機構と密接に関連しており、一般的な細胞培養条件下では解析が困難である。そこで上皮の組織形態をin vitroで再現できる皮膚モデル培養系(raft culture)を利用してウイルスの複製機構や各遺伝子の生物活性を解明することを目指した。この皮膚モデル培養系はHPVの生活環を支持できることが報告されており、このアッセイ系を用いて従来は樹立した齧歯類細胞でのトランスフォーメーションアッセイが中心であったHPVの制御遺伝子の機能に関しても、より生理的な条件でウイルス発癌との関連を明らかにできると考えた。 得られた結果をまとめると、(1)効率の良いHPV複製系を確立し、抗ウイルス剤のスクリーニングなどに適用出来る事が確認された、(2)HPV感染細胞が悪性形質を獲得する過程でras経路の変異が関与することを皮膚モデル培養系で明確に示すことが出来た、(3)ハイリスク型のE7によって上皮の過形成が誘導されることを示し、その機構にpRb, P130の不活化、およびJNKの活性化が寄与する可能性を示した。
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