PolκはDNA損傷をバイパスするDNAポリメラーゼの一つであり、色素性乾皮症バリアント型の原因遺伝子がコードするPolηと構造的に類似しているが、異なる種類のDNA損傷のバイパスに関与すると考えられる。すなわち、PolκはPolηと違って紫外線照射により生じるシクロブタン型ピリミヂンダイマー(CPD)をバイパスせず、肺がんの主要原因物質であるベンゾピレンの体内代謝物がグアニンのN2の位置に結合したような損傷(dG-N2-BPDE)を誤り無くバイパスする。また、ヒト肺がん患者から摘出された肺がん組織においては周囲の正常組織と比較してPolκの発現が亢進していた。 次にPolκをコードするマウスの遺伝子を破壊したようなマウス細胞株を分離したところ、そのような変異株はベンゾピレンに対して野生型株よりも高い感受性を示し、またベンゾピレン処理すると変異株での突然変異の発生頻度は野生型株に比べて10倍ほど高く、しかも野生型株とは異なる変異スペクトラムを示した。そのような変異パターンからは、PolηがベンゾピレンによるDNA損傷のバイパス合成に関与すると突然変異を誘発すると考えられた。 女性ホルモンであるエストロジェンの代謝物はベンゾピレン同様にグアニンのN2の位置にも付加体を生じるが、Polκはそのような損傷を効率良く、また誤り無くバイパスすることが明らかになった。また、アセチルアミノフルオレンは主にグアニンのC8の位置に付加体(dG-C8-AAF)を作るが、一部はグアニンのN2の位置にも付加体(dG-N2-AAF)を生じる。PolκはdG-N2-AAFの向い側にシトシンを挿入して効率良くバイパスした。このようにPolκは一般的にdG-N2付加体のエラーフリーなバイパス合成に関与すると結論される。
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