骨髄腫細胞の増殖因子はインターロイキン6(IL-6)であるが、IL-6に反応しない腫瘍細胞が存在するのも事実である。一方で、繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)3遺伝子の構造変化または過剰発現が骨髄腫細胞で高頻度に起こっていることが報告されている。IL-6の刺激伝達分子gp130がそれ自身でチロシン・キナーゼ(PTK)活性を欠いている(Jak型PTKを活性化)のに対し、成長因子とよばれるものの受容体の多くはPTK活性を持っており、FGFR3もそれに属する。FGFR3を過剰発現するヒト骨髄腫細胞株KMS11ではIL-6とFGFはそれぞれ異なった刺激伝達分子を活性化しており、いずれも単独では細胞増殖に影響を与えなかったが、IL-6とFGFを同時に投与した時またはFGFを前処理後IL-6で刺激した場合にKMS11の細胞増殖が促進された。KMS11をIL-6単独で刺激した時、STAT3の活性化(チロシンリン酸化)が見られたが、STAT1、ERK1/2の活性化は見られなかった。FGF単独で刺激した時、ERK1/2、PI-3K、p70S6Kの活性化を認める一方で、SAPK/JNK、p38 MAPK、PKC、PLC-gamma2、Akt、src型PTKなどの活性化を認めなかった。STAT3に関しては二量体形成、核移行、DNA結合に重要なチロシン残基のリン酸化は起こらないものの、転写活性化に寄与するセリン残基のリン酸化が生じており、これはMEK1/2選択的阻害剤であるU0126により完全に抑制された。よって、STAT3の活性化に関してはIL-6とFGF刺激の両者間に接点が認められた。以上の結果から、受容体の構造が全く異なる両者からの異なった刺激が一緒になって初めて増殖刺激が誘導されると考えられた。
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