タンパク質のリン酸化・脱リン酸化は、様々な生命現象のあらゆる局面でのタンパク質の機能の主たる制御機構であり、リン酸化を触媒するキナーゼと脱リン酸化を触媒するホスファターゼにより協同的、可逆的に調節を受けている。Wip1(Wild-type p53 induced phosphatase 1)は、p53依存的に誘導される遺伝子として発見された。その遺伝子産物Wip1は605アミノ酸よりなり、N末端領域にPP2CタイプのSer/Thrホスファターゼドメインを有する。本研究は、p53誘導性ホスファターゼWip1を標的とした脱リン酸化による細胞周期制御の新規な機構を解明することを目的とし、まずWip1の局在化およびWip1と相互作用するタンパク質の解析において必須なツールとなるWip1のモノクローナル抗体の作製を実施した。次に、Wip1の酵素機能解析のために、非放射性で高感度なホスファターゼ活性測定法を新規に開発し、この方法を用いてWip1のホスファターゼ活性を検討した。p53のATMおよびATRによるリン酸化部位である15位セリンがリン酸化されたペプチドを基質としたin vitroでのホスファターゼ活性測定の結果、GST-Wip1がこのリン酸化ペプチドに対し高い脱リン酸化活性をもつことが示された。また、基質としたこのペプチドについて、Wip1との相互作用の理解のために、その構造におけるリン酸化の影響を検討した。その結果、このペプチドの構造はリン酸化によって影響を受け、よりopenなコンフォメーションに変化することが明かとなった。この結果は、p53の15位セリンのリン酸化によりこの領域の構造が変化しWip1との相互作用が容易になることを示唆している。
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