生命情報はDNA→RNA→タンパク質に変換されることで機能発現しており、生体分子は様々な修飾・制御を受けている。ゲノムDNAや制御タンパク質の分子修飾の異常が多くの癌細胞に共通した病態のひとつであり、細胞の不死化・癌化や悪性化に関わる可能性が強く示唆されている。本研究では、[1]DNAメチル化とクロマチンによる転写調節、[2]細胞内タンパク質の翻訳後修飾と分解、という2つのシステムの生理機能と発癌関連性を理解することを目的とした。メチル化DNA結合タンパク質MBD1は、癌抑制遺伝子や組織特異的な遺伝子のDNAメチル化依存的な転写抑制、ゲノム安定性などに関わっている。その転写抑制とクロマチン形成機構として、1)新しいエピジェネティクス制御因子MCAF1とヒストンメチル化酵素SETDB1の複合体を介して遺伝子発現を阻害すること、2)ピストンのメチル化酵素Suv39・脱アセチル化酵素HDAC1/2、ヘテロクロマチンタンパク質HP-1との協働で転写抑制することを明らかにした。メチル化DNA領域でMBD1がH3-K9メチル化酵素をリクルートすることで、DNAメチル化からヒストンメチル化への経路があることを証明した。また、DNAメチル化とゲノム損傷修復の関連は不明な点が多いが、MBD1が塩基除去修復酵素(メチル化プリンDNAグリコシラーゼ)と協働してDNA修復反応を促すことを見出した。さらに、タンパク質の修飾・分解について、1)HECT型ユビキチンリガーゼhHYDがDNA損傷・修復に関わるトポイソメラーゼ結合タンパク質TopBP1をポリユビキチン化すること、2)血清反応を司る転写因子SRFがヒストンアセチル化酵素CBP等と共にPML核内ボディに局在してc-fos遺伝子の転写調節を行うこと、3)SRFがユビキチン様SUMO修飾で機i能制御されていること、4)ベンツピレンなどの化学発癌や低酸素応答・血管形成に働く共通の転写因子ARNTがSUMO修飾で機能制御されていることを報告した。
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