我々はBALBマウスのウレタン誘発肺発癌耐性遺伝子であるPar2のポジショナルクローニングを目指している。昨年度までに、BALB.B6-Par2congenic系統を利用した高精度染色体マッピングにより、Par2の位置を第18染色体上の約0.5cMの領域に絞った。今後は同領域に存在する遺伝子を調査し、候補遺伝子を探索することになるが、その際、Par2遺伝子による発癌耐性の責任因子が、ウレタン肺発癌の標的細胞である肺胞上皮細胞自身に存在するのか、或いは、細胞を取り囲む環境に存在するのかを明らかにしておくと都合が良い。何故ならば、責任因子が標的細胞に存在することが証明された場合、Par2遺伝子のmRNAは標的細胞自身で発現しているものと推定される。従って、候補遺伝子の吟味に際しては、肺に発現する遺伝子のみを選択することができるからである。 本研究では、BALB.B6-Par2congenic系統とBALB系統との間でキメラマウスを作成し、同マウスにおけるウレタン誘発肺発癌を解析した。BALB.B6-Par2congenic系統はPar2遺伝子座がC57BL/6由来であることを除けば、遺伝背景がBALBと同一である。C57BL/6のPar2アレルには発癌耐性形質がないので、同congenic系統はBALBよりも約8倍発癌感受性が高い。キメラマウス生体内おいては、congenic系統由来の発癌標的細胞とBALB系統由来のそれが同一の環境中に存在する。従って、キメラマウスにウレタンを投与して生じた肺腫瘍の大部分がcongenic系統由来であれば、Par2形質の責任因子は標的細胞自身に存在することになる。これに対し、congenic系統由来およびBALB系統由来の腫瘍がほぼ同頻度で発生すれば、責任因子は標的細胞周辺の環境(例えば血中の増殖因子)に存在することになる。腫瘍の由来系統はPar2に連鎖する多型マイクロサテライトの解析により容易に知ることができる。 実験の途中経過ではあるが、キメラマウスに生じた肺腫瘍の多くはBALB.B6-Par2congenicマウス細胞由来であった。よって、Par2の作用はcell-autonomousであることが示唆された。Par2は腫瘍化標的細胞ないし腫瘍細胞内で発現し、その作用を発揮するものと予測される。
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