研究概要 |
二つの白血病関連蛋白質であるPEBP2β蛋白とWT1蛋白とにつき、細胞内局在と細胞周期・転写制御との関連、また標的遺伝子候補につき解析し以下の結果を得た。 (1)血球細胞の分裂時においてPEBP2β蛋白は複製した二つの中心体とその細胞内移動を同じくする。また血球遊走時に、ユロポッド内の中心体周囲にPEBP2β蛋白は密に分布する。 (2)PEBP2β蛋白と結合する因子として、細胞骨格成分であるフィラミンA分子を同定した。フィラミンAが存在する場合にはPEBP2β蛋白は細胞質に局在し、PEBP2依存性の転写活性化は起こらない。一方フィラミンAが欠如する場合は、PEBP2β蛋自は核に局在し、PEBP2依存性に転写が活性化される。 (3)WT1蛋白と結合する因子として、転写伸長を制御するCA150蛋白質を同定した。またWT1蛋白とGATA蛋自の両方に結合する因子として、WTAPを同定した。同定した両因子の意義につき、解析を進めている。 (4)WT1発現細胞、EWS-WT1キメラ蛋白を発現する細胞を用いて、12,000遺伝子の発現プロファイルを作製した。この中でEWS-WT1により発現が亢進する遺伝子として80-200種、WT1により発現が亢進もしくは抑制される遺伝子として200-600種を同定できた。さらにこれら同定した遺伝子につき、マイクロアレイの結果とRT-PCRの結果とがよく相関することを確認した。 PEBP2β蛋白の細胞内局在は、細胞周期制御や転写制御に直接関わる、重要な因子と考えられる。その意味でPEBP2β蛋白と結合するフィラミンA分子を同定できたことは今後、PEBP2β-SMMHCキメラ蛋自による細胞周期・転写の脱制御、さらに白血病細胞の特性を解明する上での鍵となりうる。またWT1蛋白やEWS-WT1キメラ蛋白により発現を変動する遺伝子の中には、膜蛋白質が多く含まれている。白血病細胞の接着・運動性の変化を、それら膜蛋白質との関連から探求できる糸口を把むことができた。
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