大Maf群転写因子の発がんにおける機能を明らかにする目的で、B細胞または、T細胞特異的にc-Mafを過剰発現するマウスを作製したところ、それぞれのマウスにおいて、白血病の発症が観察された。B細胞にc-Mafを過剰発現したマウスでは、B220陽性のplasmacytoma(骨髄腫)が発症した。また、T細胞にc-Mafを過剰発現したマウスでは、CD3およびB220陽性のT細胞リンパ腫が発症した。T細胞リンパ腫はヌードマウスに移植可能であり、T細胞受容体の再構成パターンの解析より、単クローン性に増殖していることを確認した。c-Mafは転写因子であることから、それらの腫瘍細胞における標的遺伝子の確認を遺伝子発現解析により行った。その結果、c-Mafの過剰発現にともなって、cyclinD2とARK5の過剰発現が誘導されていることが明らかとなった。これらの遺伝子は増殖促進とアポトーシス抵抗性の機能を有しており、これらの遺伝子が誘導されることが、リンパ腫の発症に関与していると考えられた。また、ヒトT細胞白血病における大Maf群転写因子の関与については、これまで報告されていなかったので、共同研究によりヒトT細胞白血病症例について解析を行ったところ、特定のT細胞白血病症例でc-Mafの過剰発現が確認された。以上のことから、c-Mafの過剰発現がヒトT細胞白血病の発症原因の一つであることが示唆された。一方、大Maf群転写因子の正常細胞の分化における機能的貢献を明らかにするためにMafB欠損マウスを解析したところ、MafB欠損マウス由来のマクロファージは、CSF-1に対する増殖能力が減少していることが明らかとなった。さらにMafA欠損マウスを作製したところ、MafA欠損マウスはinsulin分泌不全を起こし、糖尿病を発症することが明らかとなった。
|