研究概要 |
過形成の検討にはPKCη欠失マウスを用いた。また、補償反応が予想されることからPKCαとζ欠失マウスの作出を行なった。酵素活性に不可欠なキナーゼ領域のATP結合部位をコードするエクソンの前後にloxP配列を挿入したターゲティングベクターを構築した。発生工学的手法によりfloxedマウスのホモ型変異体を得た。両floxedマウスに異常はなく、コンディショナルノックアウトの条件を満たしていた。 発がんプロモーター12-O-tetradecanoylphorbo1-13-acetate(TPA)をPKCη欠失マウス背部皮膚に投与後二日で、野生型と同様に表皮層が正常の約三倍の厚さとなり、過形成が誘導された。野生型の表皮は7日目には正常の厚さに戻った。しかし、ホモ型では7日目も同程度の過形成を維持していた。細胞増殖は基底層に限られ、アポトーシスの異常も認められなかった。 マウス背部皮膚全層をパンチで切除し、その後の治癒過程を調べた。PKCη欠失ホモ型マウスにおける創の収縮は、野生型と同等であった。しかしその後の再上皮化に遅延が認められ、治癒の完了は野生型にくらべて約三日遅延した。ホモ型の皮膚では完治時も再生表皮層の著しい過形成と再構築の異常が認められた。 背部皮膚に化学発がん物質7,12-dimethyl-benz[a]-anthracene(DMBA、100μg)を4週間の間隔で5度投与して腫瘍の発生を調べたが、発生率にホモ型と野生型での有意差は認められなかった。このホモ型変異体は皮膚二段階発がん実験で高頻度に腫瘍を発生する。これはTPA投与によるプロモーション過程での感受性が高まっていたことによる。DMBAによる突然変異に対してはPKCηの関与は考えにくい。 これらの結果は発がんプロモーションに過形成が重要な役割を担う可能性を示唆している。
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