FAKはファイブロネクチン刺激によりErkおよびJNKを活性化する。このMAPK活性化は細胞増殖、細胞分化、細胞運動の制御に必要である。最近同定されたMAPKのScaffold protein(JSAP1)はMAPK、MAPKK、MAPKKKと結合することでJNK活性化の足場として反応を促進する。一方でErk活性化に対しては抑制的に働きシグナル伝達の特異性を規定する因子であると考えられる。 (結果)インテグリン/FAKを介した情報伝達系におけるJSAP1の役割を検討した。JSAP1はFAKのN-末端と結合し、FAK-Src複合体形成にともないFAKへの結合増大、チロシンリン酸化されることが分かった。このJSAP1のチロシンリン酸化はY397F-FAK変異体の発現やSrcの不活性化により減少し、細胞をファイブロネクチンで刺激することでも誘導された。また、JSAP1を発現させることによりファイブロネクチン上でのcell spreadingが亢進され、この作用にはJSAP1のチロシンリン酸化が必要であった。以上の結果、FAKがJSAP1を細胞接着斑にリクルートし、Srcがチロシンリン酸化し、cell spreadingを亢進するものと考えられた。FAKはJSAP1を介してより選択的にMAPKを制御し、細胞増殖、細胞分化、細胞運動を調節していると考えられる。 (考察)ファイブロネクチンによる細胞刺激はインテグリンの集積とFAKの自己リン酸化を引き起こす。この自己リン酸化はSrcおよびPI-3 kimaseとの複合体形成だけでなく、p130casなどの多くの情報伝達分子のリン酸化、集積を誘導する。この結果MAPKおよびPI-3 kinaseの活性化を惹起し、cell spreadingや細胞運動を誘導すると考えられる。本研究でFAK/Src複合体とJSAP1の関与を証明できたことはFAKがJSAP1を細胞接着斑にリクルートすることでより選択的にMAPKを制御し、細胞増殖、分化、運動などの機能を調節している可能性を示唆している。JSAP1のファイブロネクチン上でのcell spreadingを亢進する作用がMAPKの活性化とどの様な関係にあるのか、またどの分子との会合がcell spreadingの亢進に必要なのか、細胞運動およびMMP活性発現に対する作用も検討する予定である。
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