タイトジャンクション(TJ)は、単層上皮で発達する細胞間接着構造であるが、重層扁平上皮である表皮にも存在する。しかもTJには、カルシウム非依存的な接着活性があることが判明し、単に細胞同士を密着させるだけの接着構造ではないことが指摘されている。一方、細胞が癌化して、浸潤能や転移能を獲得する過程では、分化度は低下し、細胞同士の接着能も失われていく。本研究では、表皮のTJの分子発現と癌化との関係について、ヒト表皮由来の有棘細胞癌、Bowen病各5例につき、蛍光抗体法を用いて検討した。正常ヒト表皮では、オクルディン(Oc)、ZO-1、クローディン(CLDN)-1、CLDN-4の発現を認めた。有棘細胞癌においては、癌化と共にOc、ZO-1、CLDN-4の発現減少もしくは喪失を認めた。一方、CLDN-1については癌化と共に、発現が亢進した細胞と減少した細胞が不均一に混在した.この所見は、浸潤部と腫瘍部で大きな差は認められなかった。一方、癌真珠等の角化部位では、4分子共に比較的強く発現した.Bowen病でも、個別角化している細胞には4分子とも発現した。 また、α-フェトプロテイン、CEAなどの胎児期抗原が腫瘍マーカーとなることがある。表皮の発生過程では、初期から中期にかけてperidermとよばれる単層上皮が表皮を覆い、発生後期に角化の完成とともに脱落する。角化細胞の癌胎児抗原となりうる可能性を念頭におき、peridermのTJに特異的に存在する分子をクローディンファミリーの中で検討したところ、マウス表皮発生過程では、クローディン-6が胎児期のperidermにのみ発現していることを認めた。
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