研究概要 |
近年、正常細胞における外界適応や、癌細胞の運動性等を亢進する因子の1つとして、様々な低分子量G蛋白質が深く関与していることが明らかにされてきた。しかし、実際に低分子量G蛋白質が、細胞中の何処でどの様な時間経過でどれ位の分子数が活性化されると細胞の形態変化や細胞接着・運動性等との関係するのかは未だ不明な点が多い。これらを明らかにするために、生きた細胞中で低分子量G蛋白質の活性化状態や動的振る舞いを蛍光エネルギー移動法(FRET)を用いて可視化する事を目的としている。 昨年まで目的のイメージングに適しているように蛍光色素の導入や顕微鏡の開発を行ってきたが、今年度は1 H-Ras組換え体への特異的なCys部位へ新たな蛍光色素の導入に加え、2 GTP, GDPの蛍光色素の標識化、3 G蛋白質の活性化状態の1分子レベルでの可視化に成功し、4 IC3-RasとCy5-GTPの蛍光エネルギー移動により、活性化状態のRasの構造は2つ以上の準安定な構造が存在することを示唆する結果(1分子レベルでのIC3とCy5それぞれの蛍光強度の時間経過からエネルギー移動が観察され、分子内構造が変化している様子がうかがえる),さらに5 活性化状態のRas単独の分子構造変化とエフェクターとの結合時のそれとの比較検討をおこない、エフェクター(c-RafとRalGDS)と結合した時のRasの分子内構造のゆらぎは活性化状態のRas単独のものと比べ、準安定な構造が制限される事が解った。 一方、細胞中のどの様な場所でどの様な時間経過での変化なのかはin vitroの実験結果だけでは未だ解らないが、生きた細胞を用いてRaf-1のEGF刺激に対する動態を蛍光蛋白質GFPの変異体であるYFPとのキメラ蛋白(YFP-Raf-1)を用いてイメージングし、EGF刺激後の細胞質から膜に移行する過程を実時間で観察出来てきており、これらの技術を応用し、細胞の形態変化等を追従しながら低分子量G蛋白質の動態との関係も明らかに出来ると期待している。
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