細胞周期調節機構であるRB経路の構成因子の一つであるp27^<Kip1>は、予後不良の癌において分解が亢進しているのが確認されているが、その因果関係は未だ不明である。本研究ではRB経路の崩壊による細胞悪性化のメカニズムの解明を目標とする。 本研究におけるヒト遺伝子の細胞レベルでの機能解析はノックアウトマウスや臨床検体を材料とするのでは困難であると考られたため、「ヒト細胞を用いたヒト遺伝子のコンディショナルソマティクノックアウト細胞」を作成して解析材料とすることにした。まずp27^<Kip>欠失細胞を得るためのターゲッティングベクターを構築した。ベクター中には相同組み換え体を効率よく選択するためにpositive/negative selectionが可能となる遺伝子を、またコンデショナルなノックアウトのために標的領域両端にloxP遺伝子を導入した。現在p27^<Kip1>の分解が亢進していない大腸癌細胞HT116にターゲッティングベクターを導入し、相同組み換え体をスクリーニングしている。 またp27^<Kip1>存在量の低下モデルとして、p27^<Kip1>の分解実行因子であるSkp2の恒常発現HCT116細胞を樹立した。マイクロアレイによってSkp2高発現によって発現変動する遺伝子の同定を試みたところ、9種の候補遺伝子が同定された。今後はそれらの発現変動の有無をin vitroおよびin vivoレベルで再検証のうえ、臨床の癌検体における発現変動を調べるとともに、癌形質の変化への関与を分子レベルで検討する。また上記の組み換え体が得られ次第、これも対象にして同様に解析を進める。 一連の研究成果からは新しい分子標的をターゲットとした癌の悪性度の診断法、予後不良の癌の治療法の開発、並びに癌の悪性化の予防薬の開発への発展が期待される。
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