腫瘍細胞にしばしば見られるチロシンキナーゼの活性化は、腫瘍の増殖・転移などの特性に密接に関係していると考えられる。各種インテグリンファミリーを介する細胞接着刺激は、Src-FAK-CasやCaveolin-Fyn-Shcなど異なる経路で異なる種類のチロシンキナーゼを介して特定の細胞内基質のチロシン残基でのリン酸化を引き起こす。神経芽細胞腫の細胞株でチロシンリン酸化したドッキング分子ShcCと複合体を形成したチロシンキナーゼを精製し、質量分析でその主成分である150-200kDの蛋白質がALKであることを決定した。ALKの活性化が見られる複数の細胞では、N-mycと共にALKの増幅が認められこれが活性化の原因と考えられた。更にShcCのドミナントネガティブ体がALKの増幅した神経芽腫細胞でヌードマウスにおける造腫瘍能を著明に抑制することを見出した。またマウスの転移性の異なる同系のメラノーマ腫瘍株を材料に用いて、リン酸化チロシン抗体カラムによる粗精製と質量分析によりチロシンリン酸化の変化する蛋白質群を検出する方法を確立した。得られた蛋白質の構造と機能の解析が進行中である。その中で細胞運動に関わるドッキング分子Casは非転移性株に比べ転移性株でフィブロネクチン刺激前後のチロシンリン酸化の変化が著明に増加していることから、チロシンキナーゼ・ホスファターゼの制御でCasチロシンリン酸化レベルが大きく変動することがこれらのメラノーマ細胞における転移能に関わることが示唆された。今年度にCas蛋白質の各種変異体と部位特異的なリン酸化Casの抗体を作成し、現在、Casのそれぞれのチロシンリン酸化部位の機能解析と、その結合阻害による腫瘍細胞の運動能・転移能に与える影響の検討を行っている。
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