ドッキング分子CasはSrcファミリーのシグナルを伝えることにより細胞運動や形質転換を制御する分子であることを示したが、Cas欠損細胞と各種変異体を用いた実験で、Casに繰り返して存在するYDxPモチーフがアクチンストレスファイバーの形成と細胞運動能に必須であるのに対し、CasのSrc結合領域は、細胞運動とSrcによる形質転換に最も重要な領域であることがわかった。Casの各リン酸化部位の腫瘍細胞における役割を更に理解するため、Casの6種類のチロシンリン酸化モチーフに対するリン酸化特異的抗体を作成し、腫瘍細胞の運動や細胞接着におけるCas個々のチロシンのリン酸化の状態変化を観察した。これらの実験によってCasの主要リン酸化部位であるYDxPモチーフのリン酸化・脱リン酸化が細胞運動を制御していることが明らかになった。一方、神経芽腫細胞株およびヒト神経芽腫組織の約10%において、遺伝子増幅によって受容体型チロシンキナーゼであるALKが活性化して、下流のドッキング分子ShcCの過度のリン酸化および、ALK-ShcCの安定した複合体形成がおこり、最終的にMAPK経路の活性化がおこるというメカニズムを始めて見出した。この神経芽細胞腫のシステムで、ShcCのドミナントネガティブ変異体の発現により、レチノイン酸による分化誘導後も突起の形成がほぼ消失し、ヌードマウスによる造腫瘍能も顕著に抑制された。この組織を調べると細胞増殖関連抗原のMIB-1とcyclin Aの発現が抑制されていることから、ALK-ShcCを介するシグナル経路がこうした腫瘍細胞の細胞周期の進行に関与していることが示唆された。またALKキナーゼの活性化している神経芽腫で、ALKの発現をRNAiによって抑えると腫瘍細胞がMAPKとAKTのリン酸化を抑えると同時に細胞がアポトーシスに向かうことが観察された。
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