マウスメラノーマK-1735の高転移株群において、Fynチロシンキナーゼの活性化と、それに伴い強くリン酸化された85kDの蛋白質CortactinとFynとの複合体形成が検出された。同系の低転移株と比較すると、Cortactinはリン酸化だけでなく発現量も著明に上昇していた。高転移株ではフィブロネクチン上への接着刺激の後、約1時間からCortactin蛋白質の発現誘導がみられ、2-5時間をピークとしたFynの活性化とCortactinの強いリン酸化が認められた。これらの変化はde novoの蛋白質合成を阻害すると消失し、また同系の低転移株では観察されなかった。Cortactinないし他のドッキング分子の誘導に伴うFynの活性化が、細胞の転移能に関わる可能性を考えている。 一方、ヒト神経芽腫細胞株および組織の約10%において、遺伝子増幅によって受容体型チロシンキナーゼであるALKが活性化して、下流のドッキング分子ShcCの著明なチロシンリン酸化が起こっていたが、このような細胞ではShcCのドミナントネガティブ変異体の発現により、レチノイン酸による分化誘導後も突起の形成がほぼ消失し、ヌードマウスによる造腫瘍能も顕著に抑制された。それに対しShcC過剰発現では細胞の運動能は亢進しており、ヌードマウスの造腫瘍能や足場非依存性増殖能はむしろ著明に抑制され、このような効果はすべてSH2領域を欠損するShcCでは認められないことから、ShcCはSH2を介して、報告されているShcAの機能とは異なる形質転換に対する抑制的効果を持つことが示唆された。
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