研究概要 |
癌抑制遺伝子産物PTENは、ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(PIP3)を脱リン酸化することによって、細胞増殖あるいは細胞生存シグナル等のPIP3を介する細胞内シグナル伝達系に対して負の調節因子として機能することが知られている。PTEN遺伝子の変異は細胞内PIP3量の恒常的な亢進につながり、その結果細胞の異常な増殖や不死化を引き起こし、細胞の腫瘍化につながる原因になると考えられている。 様々な腫瘍において見いだされる癌抑制遺伝子PTENの変異にはその脂質ホスファターゼ活性を消失させる酵素活性中心近傍でのミスセンス変異のほか、C末端領域約50アミノ酸残基を欠失するようなナンセンス変異あるいはフレームシフト変異が非常に多いことが知られている。このC末端領域欠失変異はホスファターゼ活性そのものには直接影響を及ぼさないものがほとんどであることから、細胞内におけるPTENの生理活性発現においてこの領域が重要な役割をもつと考えられる。我々はC末端領域欠失による癌化メカニズムを解析する上でこの領域がもつ役割に注目し、この領域と相互作用する因子のスクリーニングをおこなったところ、癌抑制遺伝子産物と考えられる分子をはじめとするいくつかの分子を見いだした。またこの相互作用は腫瘍由来のC末端領域内の変異によって著しく減弱すること、さらにこの分子がPTENのC末端領域に結合することによってPTENが細胞内で安定化することを見いだした。
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