研究概要 |
発生学的に血球と一部の血管内皮細胞は共通の起源を有する。これを反映して成体骨髄の造血幹細胞にも小腸や生殖器官の微小血管へと分化する能力があることを、我々は最近の研究で明らかにしてきた。損傷血管や固形癌の内部血管も骨髄由来であることが近年示唆されており、血管を必要とする組織から幹細胞動員分化因子が出されていることは確実である。我々はGFPトランスジェニックマウス造血幹細胞を移植した骨髄キメラマウスに癌細胞を移植する実験系を使って、固形癌におけるホスト骨髄由来細胞の分布を解析した。その結果、骨髄幹細胞は血管内皮細胞ばかりでなく癌病巣の周囲と内部に散在する間質系細胞へも分化転換していることが判明した。同様のことは生理的な組織リモデリングがおこっている妊娠期の子宮でも観察された。子宮ストロマ細胞株を新規に樹立して、純化した骨髄造血幹細胞と共培養したところ、CD45陰性の非血球細胞への分化転換がストロマ細胞培養上清依存的におこった。一方、骨髄幹細胞の動員因子をさらに探索する目的で、損傷筋細胞の遺伝子発現を解析した結果、Osteopontin,BMP-4,IGF-2,BRAKなどのサイトカイン・ケモカインが特異的に産出されていることを見出した。ストロマ細胞培養に含まれる因子や損傷筋から同定したサイトカイン群は、VEGFやHGFのように癌組織からも分泌され、骨髄細胞を誘引している可能性がある。それらの癌形成における作用は、今後行う予定でいる中和抗体注入や癌細胞株への遺伝子導入実験により明らかにできると期待される。
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