研究概要 |
放射線照射と温熱による増感機構について解析するとともに,細胞のもつストレス応答シグナルの抑制が,放射線の効果をどのように修飾するかを明らかにすることにより,旅射線照射と温熱の有効な併用方法とその分子生物学的機構を解析することを目的とした.また,放射線照射ならびに温熱の効果に影響を与える低酸素ストレスについて,その意義と治療効果への影響を明らかにすることを目的とした.実験腫瘍を用いた放射線と温熱の併用研究では,熱耐性の抑制や放射線照射からの亜致死障害からの回復阻害など,互いにその効果を高める機構が存在すると考えられた.薬剤により熱耐性を抑制することにより,温熱の効果のみならず,放射線と温熱の併用効果も増強することが明らかとなった.熱耐性抑制による増感の機序は,HSPの発現抑制と熱感受性のS期細胞の増加が関与していた.レーザー顕微鏡による解析では,温熱開始直後からHSPの核内への移行と経時的な細胞質への再分布が明らかであったが,HSPの発現抑制により細胞質へのHSPの再分布が抑制された.臨床的には,胸壁浸潤型肺癌や難治性肉腫などにおいて,放射線と温熱の併用が有用であることを明らかにした. 放射線と温熱の効果に重大な影響を与える低酸素腫瘍の解析においては,子宮頸癌と食道癌を用いて,HIF-1,p53,p21,BAXなどの因子を解析し,HIF-1の高発現が治療効果に影響することを明らかにした.p53の変異などの腫瘍側の因子に関しては,影響は軽微であった.このため治療前の腫瘍の低酸素状態の非侵襲的定量化が今後の重要な研究課題と考えられたため,種々の低酸素評価法を実験腫瘍を用いて試みた.電極を腫瘍内に挿入し直接酸素濃度を測定する方法や,31P-MRSなどの方法と比較して,低酸素細胞マーカーであるβ-D-IAZGPは,副作用も軽微で,腫瘍の大きさにかかわらず,その取り込みが評価可能であり,臨床上も有用性が高いと考えられた.
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