研究概要 |
肺腺癌に特異的な遺伝子変化とともに,肺腺癌の生物学的挙動に関連した遺伝子変化を同定する目的で,肺腺癌の発現プロファイルのDNA chipによる解析を進める.今年度は,これらの解析における基本的な問題である以下の3点について検討を行った. 癌内部の発現不均一性:肺腺癌では,しばしば中心部に瘢痕形成が見られ,瘢痕形成部の腫瘍細胞は腫瘍周辺部の腫瘍細胞に比べより悪性度の高い組織像を示すことが多い.免疫組織化学的解析を行い,細胞周期関連蛋白の中でもcyclinD1以降の制御機構が癌中心部,辺縁部で異なっていること,さらに腫瘍中心部(特に浸潤先進部)においてlaminin-5とcox-2が共発現していること,アクチビンAの発現が辺縁部でむしろ亢進していることが見出された.今後,肺腺癌の癌中心部,辺縁部をマイクロダイセクションし遺伝子発現プロファイルを解析する際,結果の妥当性を検証する上で有用な情報となる. マイクロダイセクション試料へのDNA chip応用に関する技術的問題:マイクロダイセクション試料をDNA chip解析するためには,可及的に試料の回収を短時間に行うことが必要であるが,凍結切片を20秒という短時間で染色を行ってもRNA integrityの低下が避けがたいことが明らかとなった.凍結に代えて,何らかの固定を行った材料から出発する等,新たな技術開発を早急に行う必要性がある. 肺癌の発現情報解析のためのバイオインフォマティックスの開発:マイクロアレイで測定された発現情報と染色体上の位置情報を統合することによって,遺伝子単位による詳細な異常領域の同定が期待されている.本手法を用いると,異常領域を数百Kベースの解像度による同定が可能であり,実用性は極めて高いが,発現量の絶対値が低いとSN比も低くなってしまう現状では,抑制異常領域よりも増幅異常領域の同定の方が精度が高いと考えられた.
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