ヒト単球系白血病細胞U937をetoposideなどの抗癌剤で処理すると数時聞でアポトーシス小体の形成を伴う典型的なアポトーシスが観察される。この細胞系を利用して、細胞形態の変化を指標にCaspase非依存性細胞死の誘導剤を探索した.その結果放射線増感作用のある8-Nitrocaffeineが、薬剤処理濃度及び処理時間によらず形態的にアポトーシスとは異なる細胞死をU937細胞に誘導することを見いだした.電子顕微鏡で8-Nitrocaffeineによる細胞死を詳細に観察した結果、8-Nitrocaffeine処理2時間後には細胞全体及び核やミトコンドリアに著しい形態変化が認められ、4時間後には細胞膜の絨毛の消失と細胞質に空砲形成が見られた。6時間後には細胞膜表面が荒れた感じになり、細胞質もスカスカになっていた。これら細胞死の形態的な観察から8-Nitrocaffeineがアポトーシスとは異なる細胞死を誘導していることが示された。8-Nitrocaffeineで処理した細胞では、染色体DNAのヌクレオソーム単位への分解は全く認められず、また細胞内でCaspaseの活性化も認められなかった。さらにCaspase阻害剤ZVADを同時に処理しても8-Nitrocaffeineによる細胞死は全く抑制されなかった。これらの結果から8-NitrocaffeineはCaspase非依存的にネクローシス様の細胞死を誘導することが明らかになった。8-Nitrocaffeineのニトロ基は細胞内で還元的代謝を受けるが、酸素が十分存在する条件ではニトロ基に再酸化されてこのとき同時に活性酸素が産生される。8-Nitrocaffeineと同時に抗酸化剤PDTC、BHA、Troloxで細胞を処理すると、8-Nitrocaffeineによる細胞死が顕著に抑制された。また無酸素状態で細胞を8-Nitrocaffeineで処理すると細胞死は全く認められなかった。これらの結果から、ニトロ基の酸化還元反応で産生される活性酸素が8-Nitrocaffeineによる細胞死に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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