本テーマは、がん細胞であることを認識して、初めて細胞障害能を発揮する、新規抗がん剤のデザイン・開発を行うことを目的としている。本年度は筆者がこれまでに見いだしてきた、蛍光性分子の蛍光コントロール法として有効な光誘起電子移動(PET)によって、光増感剤の増感能もコントロール可能かどうかを検討した。PETを効率よく起こすためには、強い電子供与性基を持ちElectron Donorとして働く部位、あるいは強い電子吸引性基を持ちElectron acceptorとして働く部位を蛍光団の近くに存在させる必要がある。この意味でフルオレセイン誘導体であり、ヨウ素等の重原子効果により光増感能を発揮するローズベンガルなどの増感剤は、上記ストラテジーが可能かどうかを検証するよいモデルとなる。そこで種々のローズベンガル誘導体を合成し、その光増感能を精査した。具体的には、励起光照射によって生成する一重項酸素量を1268nmの化学発光を用いて、また生成する活性ラジカル総量をTEMPO法を用いて定量した。その結果、作業仮説通り、強い電子供与性基であるアミノ基の導入、強い電子吸引性基であるニトロ基の導入により光増感能が消失することが明らかとなった。さらに、クロモフォアのスタッキングによっても光増感能はほぼ完壁にコントロール可能であることも見出された。これらの知見は蛍光プローブにおける知見によく一致し、よってPET及びスタッキングにより三重項状態を経由する光増感反応も十分にコントロール可能であることが初めて明らかとなった。 本年度の結果は、種々のがん細胞に特異的なマーカー酵素などにより初めて増感能の回復する機能性分子を、合理的にデザインすることが可能であることを、端的に示している。さらには、PET、スタッキングといった複数の手法により光増感能のコントロールが可能であったことから、様々な種類のがん細胞マーカー分子を光増感能スイッチとして選択可能となり、よって当初目標である化学療法剤の開発は現実味を帯びてきたと考えている。
|