我々は、IGF-IRにおける950番目のチロシンと1245番目からのC末端領域が、それぞれ独立にIGF-IR遺伝子ノックアウトマウス由来線維芽細胞(R-)に放射線抵抗性を付与することを昨年度までの研究で明らかにした。興味深いことに、1245番目で欠失したIGF-IR変異体は放射線抵抗性を付与できるのに、インスリン受容体には存在しないTyr-1250/Tyr1251の点変異を導入したものは、完全に放射線抵抗性が喪失することを見出した。この変異体は、自己リン酸化、ERKおよびAktを活性化する能力は野生型と全く同様に保持されていた。さらに、培地中にIGF-Iを様々なタイミングで添加しても、放射線感受性は全く影響を受けなかった。すなわち、この変異体は、生存シグナルを野生型と同様に発しているにもかかわらず、放射線抵抗性が失われていることを示している。また、Tyr1250/Tyr1251変異体のC末端を少しずつ欠失していくと、1307番目では感受性のままであったが、1292番目での欠失では野生型と同等になることが判明した。すなわち、Tyr1250/Tyr1251変異体が感受性になるためには、Tyr1250/Tyr1251の変異とともに少なくとも1293番目から1307番目までの領域が存在しなければならない。IGF-IRのC末端領域のみを膜の内側に結合させると強力に細胞死が誘導されることが知られており、この効果は、IGF-IRの発現によって抑制できない。His1293/Lys1294がこの細胞死効果に重要であると報告されている。この部分はまさに、1293-1307の領域に含まれていた。そこで、Tyr1250/Tyr1251とHis1293/Lys1294に同時に変異を導入すると抵抗性が失われることがわかった。以上の結果は、C末端領域は本来細胞死を誘導する機能を有するが、Tyr1250/Tyr1251がそれを抑制しており、この変異によってC末端の機能が活性化し放射線抵抗性が喪失すると考えられた。
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