今年度は以下の知見を新たに得た。 1.野生型p53遺伝子を有する正常ヒト細胞において、老化関連マーカーであるSA-β-galの誘導がp21^<WAF1/CIP1>の誘導だけではなく、p27あるいはp16の発現をともなうことを明らかにした。特にこれらサイクリン依存性キナーゼ阻害剤が発現する段階ではp21^<WAF1/CIP1>の発現レベルが逆に減少することから、p53機能に非依存的な老化様増殖停止誘導機構が存在する可能性を示した。 2.野生型p53遺伝子を欠失したヒト各種癌細胞を用いて、放射線照射後のSA-β-galの発現を検討したところ、低頻度ながら発現が見られることを見いだした。これら癌細胞では、p53依存的な細胞周期停止は誘導されないことから、DNA損傷を持ったままDNA合成を行い、細胞分裂の際にmitoticcatastropheを起こして老化様の増殖停止を誘導したと考えられる。 3.p53機能に異常のある癌細胞ではp53機能に依存したp21^<WAF1/CIP1>の発現誘導はみられないが、老化様増殖停止に先立ちp16の発現レベルの増加が観察された。したがって、p53機能依存的な老化様増殖停止の場合と同様に、p16の発現レベルを上昇させる遺伝子発現亢進メカニズムが放射線照射によって誘導されたと考えることができる。
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