研究概要 |
がんの放射線療法や化学療法には、がん細胞の自然耐性や獲得耐性によって、臨床的な治療効果に限界がみられることがある。我々の目的は、このような耐性の原因が、放射線や抗癌剤による細胞のDNA二重鎖切断を修復する機構にあると考え、その機能を阻害することにより、癌細胞の放射線や抗癌剤に対する感受性を増加させることである。動物細胞に放射線が照射されると、DNAが二重鎖切断を受け、そのシグナルがATMのキナーゼ活性を活性化して、DNA損傷部のヒストンH2AXのC末端部をリン酸化する。リン酸化されたヒストンH2AXは、NBS1,MRE11,Rad50などを集合させて、多くのタンパクからなるフォーカスを形成し、Ku80などによる非相同的DNA末端結合やRad51,Rad54などによる相同組換え修復の場を提供すると考えられる。我々は、がんの放射線治療における増感効果を得るために、DNA修復に関する遺伝子機能の抑制による効果を検討した。ヒトHeLa細胞やマウステラトカルシノーマF9細胞を用いてRNAiによりRad51,Rad54,Ku80などのタンパク合成を特異的に抑制したところ、癌細胞の放射線やシスプに対する感受性が増加することが明らかになった。シスプラチンに対しても増感効果が認められた。ヒストンH2AXはturn overが比較的長いことから、一時的なRNAiは効果がなく、Tet-Offシステムを用いてヒストンH2AXの発現をDoxycyclineによって抑制する系を確立した。このF9細胞をマウスに移植しヒストンH2AXの発現を抑制した場合、腫瘍(F9)の放射線増感効果が得られた。このような方法を癌の放射線治療や化学療法に併用することは、低線量、低濃度でのがん治療あるいは耐性がんの克服を可能にし、癌治療におけるQOLを高めるために重要であると考えられる。
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