研究概要 |
がんの放射線法や化学療法には、がんのもつ自然耐性、あるいは獲得耐性によって、臨床的な治療効果に限界がみられることがある。さらに、いずれの治療においても正常組織が障害を起こさず、副作用を少なくするために照射する放射線強度、抗がん剤の濃度を抑える必要があり、十分な治療効果が得られないことがある。我々は、がんの放射線治療における増感効果を得るために、DNA修復に関する遺伝子機能の抑制による効果を検討した。Rad51遺伝子のアンチセンスSオリゴやモルフォリノオリゴをマウスマウステラトカルシノーマF9細胞やグリオーマ細胞に導入し、放射線増感効果を検討した。その結果、Rad51アンチセンスオリゴでは、RAD51タンパクが抑制され、放射線増感効果がみられた。モルフォリノオリゴでは、Rad51遺伝子の抑制は限定的であった。さらに、近年開発されたRNAiによりRad51,Rad54,Ku80などのタンパク合成をヒトHeLa細胞やマウステラトカルシノーマF9細胞を用いて特異的に抑制したところ、癌細胞のX線や、さらにシスプラチンに対する感受性が増加することを明らかにした。siRNAは投与後、分解されるため、遺伝子治療のような問題は少ないと考えられる。また、Rad51,Rad54,Ku80遺伝子のRNAiを同時に作用させても、その発現が低下したことから、DNA修復遺伝子の多重抑制による増感効果が期待される。今後、固形腫に対して、どのようにRNAiを導入するかその有効な方法を開発したり、RNAiの種類を検討するような系統的な研究開発が実験動物レベルで必要である。一方、我々は、癌細胞の放射線感受性をピストンH2AX遺伝子の発現を抑制することにより制御できる系を確立した。この細胞は、放射線や抗癌剤による作用機序の解析や薬効評価に利用でき、がんの放射線治療に有用と考えられる。
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