研究概要 |
Allyl sulfideはガーリックに含まれる特有の香気成分であり、植物体の損傷時に維管束細胞内に局在するアリイナーゼ(alliinase)とアリイン(alliin)の酵素反応により生合成される。本研究では、1)allyl sulfideの白血病細胞分化誘導作用における構造活性相関2)allyl sulfideの分子標的の解明と作用機序3)新規抗がんallyl sulfideの創製の3点について追究し、新規抗がん剤開発のための基礎的な知見を提供すると共に血液腫瘍細胞の分化メカニズムについても明らかにしようとした。 まず、ヒト急性前骨髄球性白血病細胞HL-60をモデルとして短時間で多検体を評価できる新しい分化誘導測定系を確立した。さらに、ガーリック由来のallyl sulfideの構造活性相関や分化誘導機構に関する基礎的な検討を行った。Diallyl monosulfide(DAS),dipropyl disulfide(DPDS)はHL-60細胞の増殖や分化にはほとんど影響を及ぼさなかった。一方、diallyl disulfide(DADS)はHL-60の増殖を抑制し分化を誘導したことから、分子内の硫黄が2個以上であること、allyl-基の飽和型であるpropyl-基を有するsulfideには活性が認められないことから、側鎖の2重結合がHL-60の増殖抑制、分化誘導に重要であることが明らかになった。DADSは既知のHL-60分化誘導物質とは異なりcyclin B1レベルを増大させ、細胞周期をG2-M期で停止させた。また、DADSは顆粒球方向へ分化したHL-60細胞のcaspase-3活性を増大させたがapoptosisは惹起しなかった。現在、DADS,DATSについて、文部科学省がん特定総合がん・スクリーニング委員会によるスクリーニング(ヒトがん細胞パネル、プロテインキナーゼ阻害、基底膜浸潤阻害、血管新生阻害)を依頼している。これらの結果を合わせてDADSの作用メカニズムが明確にできるものと考えられる。
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