研究概要 |
腫瘍の成育には血管新生による栄養路の確保が必須である。この腫瘍血管新生を阻害できれば有効な治療法となる可能性が高い。昨年度、可溶型VEGF(Vascular endothelial growth factor)受容体(細胞外領域のみの受容体:VEGFを吸着するとともにDominant-negative受容体として野生型受容体機能を阻害する)を筋肉内あるいは腹腔内にアデノウイルスを用いて遺伝子導入することでヌードマウス皮下に移植した多くの癌細胞による腫瘍生育を抑制することができた。しかし無効例もあった。この無効例ではVEGF以外の血管新生因子が使われているとの仮説を検証した。本年度はFGF(Fibroblast growth factor)に注目した。ヒト由来の癌細胞11種のうち6種の癌細胞で細胞質分画にFGF-2の存在が認められた。可溶型FGF受容体を作成しアデノウイルスに組み込んだ。腹腔内に導入すると、可溶型VEGF受容体導入が無効であった腫瘍の血管新生が阻害され腫瘍は退縮した。可溶型VEGF, FGF受容体を併用すると複数の癌細胞でそれぞれの単独使用に比べ腫瘍抑制に相加効果を認めた。FGF-2を産生しない癌細胞による腫瘍には可溶型FGF受容体は無効であり、VEGF, FGF-2など腫瘍血管新生に必要な因子は主に癌細胞自身から供給されることが示唆された。可溶型VEGF, FGF受容体を併用しておくと腫瘍形成を調べた11種の癌細胞のすべてで有意な腫瘍成育抑制効果が認められ、抗血管新生分子群の併用療法はより実用的な治療戦略としての発展が期待される。なお研究成果は現在投稿中である。
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