アポトーシスは種を越えて細胞自身がもつ細胞自殺の機構であり、その制御異常は癌の発生過程や化学療法耐性化と密接に関わっている。我々はアポトーシス阻害因子である解糖系の解毒酵素グリオキサラーゼI(GLO1)が正常ヒト組織と比較してヒト固形癌細胞で発現亢進が認められること、特にヒト肺癌細胞において高頻度にその著しい活性亢進が認められることを明かにした。GLO1阻害剤BBGCは、GLO1発現の亢進した肺癌細胞に対して選択的なカスパーゼ依存的アポトーシスを誘導し、またヌードマウス移植系において、GLO1発現の亢進したヒト肺癌および前立腺癌に対し効果的に腫瘍退縮効果を示した。他方、ヒト固形癌におけるアポトーシス実行機構の変異・失活を網羅的に検索し、癌化学療法センターの所有する39系のヒト固形癌のうち約40%において、Apaf-1依存的なカスパーゼ誘導活性が著しく失活していることを見い出した。この活性低下はApaf-1/カスパーゼ9系分子の発現低下やHSPの発現上昇に非依存的であった。またアポトーシス実行に関わるApaf-1/カスパーゼ9およびApaf1-like蛋白質の結合制御分子群のスクリーニングを酵母ツーハイブリッド法および抗体アレイ法を用いて検索をすすめ、今年度までにApaf1-like蛋白質CARD4/Nod1の結合因子としてRasの下流のシグナル分子を含む複数の候補制御因子を同定した。
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