アポトーシスは種を越えて細胞自身がもつ細胞自殺の機構であり、その制御異常は癌の発生過程や化学療法剤耐性化と密接に関わっている。我々はアポトーシス阻害因子である解糖系の副生成物メチルグリオキサール(MG)代謝酵素グリオキサラーゼI(GLO1)が正常ヒト組織と比較してヒト固形癌細胞、特にヒト肺癌細胞において高頻度にその活性亢進が認められることを明かにしてきた。今回さらに、ヒト肺癌におけるGLO1発現亢進に関与するプロモーターエレメントを同定した。また、GLO1阻害剤BBGCと各種抗癌剤との併用治療効果を検討しBBGCとCPT-11との強い併用効果を見出した。GLO1による薬剤耐性化機序を明らかにする上ではGLO1の標的基質であるMGの癌細胞内動態を明らかにする必要がある。MGは蛋白質修飾活性をもつことから、癌細胞内に存在するMG修飾分子の蛋白質精製、同定を試み、27kDのMG修飾分子がHSP27であることを見出した。HSP27はチトクロムCに結合しアポトーシス実行を阻害するが、この活性にArg188におけるMG修飾化が関与することを示した。他方、癌化学療法センターの所有する39系のヒト固形癌パネル細胞系における網羅的解析から、ヒト固形癌においてアポトーシス誘導経路の上流のP53および下流のアポトソームが相補的な失活パターンを示すことを明かにした。またカスパーゼ9優勢変異体導入細胞を確立し、これを用いた解析から、アポトソーム活性低下は抗癌剤耐性に寄与するが、vivoでの腫瘍形成には十分条件ではないことがわかった。さらにアポトソーム活性低下を解除する薬剤およびペプチドのスクリーニングを進め、アポトソーム低下癌の約3割の細胞に対してIAPを標的とするsmac-N7ペプチドが効果的な活性回復作用をもつことを示した。
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