研究概要 |
一般環境大気中のディーゼル排気粒子が肺がんの発生に与える影響を明らかにすることを目的として,これまでに肺がんとの関連が明らかにされている喫煙歴,職業歴,家族歴,食事・栄養等の要因に加えて,対象者の職業歴,幹線道路との位置関係を含む居住歴等を詳細に把握することによって,ディーゼル排気粒子への曝露量を推定するための質問紙を確立し,症例対照研究を開始した。現在までに千葉大学医学部附属病院の肺がん患者を対象として,50名余の協力が得られており,調査を継続している。現在までの対象患者の平均年齢は62.8±12.9歳,男43名,女10名であり,喫煙習慣別には現喫煙20名,既喫煙20名,非喫煙13名である。 曝露評価として,自動車交通量の多い幹線道路沿道と市街の住宅地区において粒子状物質の粒径別濃度と多環芳香族炭化水素(PAH)の測定を実施した。粒子状物質濃度は両地域間で差が見られなかったが,PAH濃度は沿道部89.3ng/m^3(1日平均値の最小値40.7ng/m^3,最大値151.7ng/m^3),市街地30.0ng/m^3(7.3〜70.2ng/m^3)であり,沿道部が市街地の2倍以上の高濃度であった。沿道部におけるPAHの1日平均濃度は,同期間の0.5〜1.0μmの微小粒子濃度との間に有意な関連(相関係数0.71,p<0.05)が認められたが,市街地では両者の関連は有意ではなかった(相関係数0.53)。以上より,幹線道路沿道部ではディーゼル排出ガスによるPAHへの曝露濃度が高いこと,一般環境中においては粒子状物質濃度だけではディーゼル排気粒子への曝露量を正しく推定できないことが明らかとなった。これらの結果を踏まえて,今後は地理情報システムを用いて住居と幹線道路との位置関係,交通量を評価するとともに,一部の対象者については家屋内外における簡易測定を実施する必要があると考えられた。
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