マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability;MSI)陽性癌においてフレームシフト変異により産生される変異蛋白とそれに対する宿主側の免疫応答と癌進展、癌細胞側の免疫エスケープ機序、予後との関連を検討した。癌細胞側の解析では、HLA class I抗原提示経路に関与するβ2マイクログロブリン遺伝子の変異をMSI陽性散発性胃・大腸癌、HNPCCにおいて高頻度に検出し、変異陽性例の予後が極めて不良であることを明らかにした。一方、癌における組織浸潤リンパ球は、MSI陰性散発性大腸癌に比べ、MSI陽性散発性大腸癌、HNPCCにおいて高度で、主にCD8陽性のCTLで構成されていた。つまり、MSI陽性と組織浸潤CTLの亢進は有意な相関を示し、MSI陽性癌では、免疫監視機構が賦活化されていることを明らかにした。以上の成果から、MSI陽性発癌においてβ2マイクログロブリン遺伝子の変異が強く選択されていること、また、β2マイクログロブリン遺伝子のように、ただちに細胞増殖や生存に影響を与えないが、発癌に間接的に関わる遺伝子も、MSIの変異の標的となることが示唆された。さらに、BAX遺伝子変異と同様に、β2マイクログロブリン遺伝子変異により、MSI陽性癌を群別することが可能と考えられた。腫瘍反応性リンパ球の解析からもMSIと強い免疫応答との関連が示唆され、これまで報告されてきたMSIと良好な予後との関連に関わっていると考えられた。
|