マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability ; MSI)陽性癌においてフレームシフト変異により産生される変異蛋白とそれに対する宿主側の免疫応答と癌進展、癌細胞側の免疫エスケープ機序、予後との関連を検討した。日本人胃癌サンプル、米国、イタリア、スペイン、韓国人大腸癌、胃癌サンプルにおいても宿主側の免疫応答として、組織浸潤リンパ球(TIL)は、MSI陰性癌に比べ、MSI陽性癌で高度であり、主にCD8陽性のCTLで構成されていることを明らかにした。つまり、MSI陽性と組織浸潤CTLの活性亢進は有意な相関を示し、MSI陽性癌では免疫監視機構が賦活化されていること、さらにこの事象とMSI陽性癌におけるフレームシフト変異および良好な予後との関連を明らかにした。癌細胞側の解析では、メチル化特異的PCR法によりMSI陽性癌においてHLA class I抗原提示経路に関与するHLA-A、-B、-C遺伝子のメチル化とそれに伴う発現の低下が高頻度にみられること、また不良な予後と相関することを明らかにした。標的遺伝子検索では、新たに、小胞体蛋白質輸送システムの一員であるSEC63遺伝子の(A)10領域におけるフレームシフト変異を高頻度で検出した。また、細胞外マトリックス分解酵素のひとつであるMMP-3のプロモーター領域における(T)6(C)6などの繰り返し配列における変異を明らかにした。さらに、MMP-3プロモーター領域の変異が、MMP-3の発現低下と相関すること、また、この発現低下が活性化MMP-9の発現低下と関連していることを明らかにした。これら癌細胞側の解析に関して、日韓欧米間で著明な差を認めなかった。SEREX法を用いたMSI陽性癌抗原の解析では、MSI陽性大腸癌患者の血清中IgG抗体と反応する541個の陽性クローンを単離し、81種の抗原を同定した。
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