麻疹ウイルス(MV)は、発熱、発疹を主徴とする急性感染症の原因であり、免疫系の細胞を標的とし、強い免疫抑制を起こす。MVの細胞レセプターは免疫系の細胞に発現しているSLAM (signalling lymphocyte activation molecule、CD150)である。本研究では、MVのトロピズムや病原性におけるSLAMの役割に関して下記のことを明らかにした。 1.ヒト体内でのMVの主要なレセプターはSLAMである。ワクチン株のレセプターとして機能するCD46を使うウイルスは患者体内では検出されない。 2.SLAMやCD46とは別の低効率レセプターが存在し、SLAM陰性細胞の感染に関わっている。 3.培養細胞では、MVはH蛋白の変異によりCD46を使えるように馴化する。また、M蛋白、L蛋白が細胞侵入以降のステップで細胞馴化に関与しうる。 4.MVと同じモルビリウイルス属に分類されるイヌジステンパーウイルス、リンダーペスト(牛疫)ウイルスもそれぞれイヌ、ウシSL削をレセプターとして使う。 5.ヒトSLAMのVドメインだけでMVレセプター機能に必要十分であり、61番目とその近傍のアミノ酸残基が、MV H蛋白との相互作用に重要である 6.ヒトSLAM遺伝子をノックインした遺伝子改変マウスでは全身のリンパ組織でMVが増殖する。 本研究により、SLAMがMVの主要なレセプターであり、MVのトロピズムや病原性に深く関わっていることが明らかになった。また、MVの病原性発現機構解明のための有力な小動物モデルとして、ヒトSLAMを発現するマウスが開発された。
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