精緻な結核菌感染実験を行うために、凝集塊のない生菌を調整することが必須である。従来のソニケーションを用いた方法では死菌や菌塊が多く存在し、本研究の遂行には不適切であった。そこで対数増殖期に回収した結核菌をソニケーションせず、5ミクロンのフィルターを通過させる方法を確立し、均質な単一細胞よりなる生菌を調整することが可能となった。そのようにして得られた結核菌(H37Rv株)を樹状細胞に感染させ、CD1b分子の細胞内局在を電子顕微鏡を用いて検討した。その結果、CD1b分子はファゴゾームおよびリソソームに発現することが明らかとなった。CD1b分子と脂質抗原の結合には酸性の環境が必要であるが、結核菌はファゴゾームの酸性化を阻止するため、ファゴゾーム内でCD1b分子は機能しない。そこで、ファゴゾーム内で産生された結核菌脂質抗原がファゴゾームを離れ、リソソームでCD1b分子と結合する可能性を考え、結核菌が産生する脂質(LAM)の細胞内挙動を蛍光顕微鏡を用いて経時的に観察した。結核菌感染4時間後において、LAMはファゴゾーム内のみに限局して存在した。しかし感染18時間後には、ファゴゾームだけでなく、CD1b陽性のリソソームにも発現していた。この結果と符号するように、感染18時間後の結核菌感染樹状細胞は、結核菌脂質特異的でCD1b拘束性のT細胞を活性化し、IL-2の産生を誘導できたが、そのようなT細胞刺激活性は感染4時間後の樹状細胞には認められなかった。以上の結果から、CD1b分子は、ファゴゾームからリソソームへ運ばれてきた結核菌由来脂質抗原を結合することにより、結核菌特異的なT細胞反応を誘導できることが判明した。結核菌感染細胞においてMHC分子の機能が抑制されていることを考えると、本研究で明らかとなったCD1b分子を介した脂質抗原提示経路は、結核菌感染の効率よいモニタリングのために極めて重要であると考えられる。
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