研究概要 |
ハトでは海馬損傷が、哺乳類では障害が見られる条件性弁別を阻害しないことを明らかにした。さらに、神経毒による海馬内側部、海馬傍部、海馬全体の3種類の損傷を行い、連続空間弁別の形成は海馬全体の損傷においてのみ認められ、かつ、障害は新しい記憶の定着過程に生じ、課題探索過程には障害がないという機能乖離を明にした。このような乖離は基底核損傷の場合とは反対である。キンカチョウでは海馬損傷が空間記憶の獲得に関与し、保持には関係しないこともつきとめた。ラットでは、idiothetic情報を用いた空間情報処理と海馬の関係を、ラットが毎試行場所の異なるホームから出発し、餌を見つけ、ホームに持ち帰るホーミング課題実験によって明らかにしようとした。その結果、海馬損傷ラットの餌持ち帰り行動の失敗が観察された。また、イボテン酸による海馬CA1の選択的損傷がモリス水迷路での場所課題で障害を示すことが明らかとなった。サルの研究では脳虚血によるCA1損傷を行い、少数刺激セットでは対象遅延見本合わせ、位置遅延見本合わせともに障害が見られたが、多数刺激セットでは障害が見られず、海馬が刺激間の干渉作用を解決する機能を持つことが示唆された。海馬損傷患者および健常者に記憶の検索能力を調べる課題を実施した.用いた課題は,虚再認パラダイムであり,200語程度の単語を学習させた後に,その再認を求め,符号化時の文脈判断と意味処理の能力を調べた.その結果,海馬損傷患者においては,通常の短期記憶課題では顕著な障害を示さなかったのに対し,虚再認課題では成績の低下を示した.この結果から,符号化時の文脈判断と意味処理に,海馬が関与する可能性が示唆された.また、側頭葉内側部に損傷のある健忘患者にビデオと言語教示による町並み、道順の記憶実験をおこなったところ、どちらの場合でも顕著な障害を示さなかった。
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