研究概要 |
本研究は海馬認知機能を比較心理学的に解明することを目的として出発したものである。そのため、魚類、鳥類ラット、サル、ヒトの各研究チームを構成し、相互に連携をとりつつ研究を行った。魚類についてはモリス型迷路に相当するものを考案し、大脳背内側部に海馬と機能的に対応する部位を同定することができた。また、鳥類では海馬損傷が条件性弁別を阻害しないことを明らかにした。さらに、神軽毒による海馬内側部、海馬傍部、海馬全体の3種類の損傷を行い、空間弁別の形成は海馬全体の損傷においてのみ認められることを明にした。また、国外研究協力者であるH-J. Bischofとの共同研究では、キンカチョウの空間記憶における海馬機能を明らかにした。ラットではホーミング課題実験により、海馬損傷ラットの餌持ち帰り行動の失敗が観察された。また、イボテン酸による海馬CAIの選択的損傷がモリス水迷路での場所課題で障害を示すことが明らかとなった。サルでは脳虚血によるCAI損傷を行い、少数刺激セットでは見本合わせに障害が見られたが、多数刺激セットでは障害が見られず、海馬が刺激間の干渉作用を解決する機能を持つことが示唆された。ヒトでは海馬損傷患者が通常の短期記憶課題では顕著な障害を示さなかったのに対し,虚再認課題では成績の低下を示すことがわかった.この結果から,符号化時の文脈判断と意味処理に,海馬が関与する可能性が示唆された.これらの成果を踏まえて、国外から海馬研究者を招聘し、最終年度に慶應義塾大学でComparative study of hippocampal functionsという国際シンポジウムを行った。この成果は他のinvited authorsの原稿を含めてReviews in Neurosciencesの特集号として編纂作業が進んでおり、2005年中に出版される予定である。
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