研究概要 |
正則写像の値分布論とDiophantos近似論をひとつの幾何学に融合することが本研究の目標である.数体上定義された代数多様体の有理点分布と,Cから複素代数多様体への正則写像の値分布は"共通の幾何学"で説明される,という作業仮説を検証することで本研究を進めて,次の結果を得た.(a)一般の代数多様体上では有理点分布と正則写像の値分布はともに一様ではない.分布の非一様性を検出する積分幾何学を構築した.これは,物体の内部構造の非様性を検出する"Radon変換"を,有理点分布と正則写像の値分布に共通の概念であるheight関数の概念の上に展開したものである.(b)(a)の目的のために"射影的対数微分の補題"というアイディアを導入した.射影的対数微分の補題が2つの理論の融合に有用な理由は,この補題は分布の非一様性を"Radon変換"に伴う"ジェットの散乱"として捉えるという機能をもつことにある.(c)Schmidt, Vojtaの仕事の延長上で,古典的対数微分の補題のDiophantos類似を構築した.(d)古典的対数微分の補題のDiophantos類似を射影空間の超平面配置へのDiophantos類似に応用する幾何学的枠組みを作った.それは,数の幾何学を用いることにより,有理点分布のGauss写像を無限素点だけでなく,点ごとに変わる有限素点集合を含めた素点集合に関して定式化する(すなわち数論的Gauss写像を考える),という新しいものである.(e)(a)と(d)のアイディアをAbel多様体への正則曲線の場合に融合することによって,分岐個数関数つきの第2主要定理を示すことができた.(f)代数多様体から複素半単純Lie群の離散部分群によるコンパクト商への有理型写像にもGauss写像の変種を定式化し,そのような写像はcompact torusに値を持つものしかないことがわかった. 以上のように,古典微分幾何学の重要な方法であるGauss写像は伝統的な幾何を越えていろいろな状況に適応し,多様な発展の可能性を持っている.
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