研究概要 |
Nevanlinna理論は,Cから射影代数多糠体Xへの超越的な正則曲線の値分布とXの幾何学的性質の関係を研究する数学である.Nevanlinna理論は微分幾何学の言葉を使って最も機能的に定式化されることは20世紀の幾何学的関数論の重要な成果である.しかし,Nevanlinna理論は普通の幾何学と大きく異なる点がある.普通の幾何学で有効な方法を働かせるにはNevanlinna理論に特有の設定をしなければならない.その理由は,Nevanlinna理論が本質的にはDiophantus解析だからだ.それは交点理論に最も典型的に現れる.Cからの正則曲線の因子との「交点数」を正確に測るのは超越性非常に難しい.通常の交点理論は代数方程式の根の個数を数えるだけだ.根の個数は方程式の次数だけある.しかし,超越的正則関数=0という方程式の根の個数を数えるのはむずかしい.方程式の右辺を=0から=1に変えても代数方程式の根の個数は不変だ.しかし,超越関数の場合は劇的に変わる.このような状況のもと,全うな交点理論を建設するには,根の個数を数えるのに,個数を数える有限付値だけでは不十分で無限付値(ユークリッド距離)も必要だ.それで,代数方程式の場合にはtopologyだけで済んだ交点理論が,超越関数相手だと微分幾何学なしに済まないのだ.本研究は通常の微積分に基くNevanlinna理論をMinkowskiの数の幾何学を使って離散化しDiophantus解析とNevanlinna理論を統一的に論じることだ.まず正則曲線論の基本定理であるNevanlinna-Cartan理論の離散化を試みた.Diophantus解析では有限付値の有限集合を固定した状況で有理点の集団が代数的に与えられた因子を近似し得るかを測る.固定された有限付値の有限集合という設定はNevanlinna理論では不自然だ.なぜならNevanlinna理論では正則曲線の微分が内在的に定義されるからだ.そ私のアイディアは,有理点の集団に対して有限付値の集合を固定するかわりに,Vojtaの辞書を使って,点ごとに,有限付値の有限集合を点と因子の数論的な位置関係を見ながら幾何学的にとりかえていくという状況でNevanlinna理論の対数微分の補題をDiophantus解析における微分に翻訳しようというものだ.これは因子が与えられるたびに有理点の集団に対して定義される「微分」で,因子なしでは定義できない相対的な概念だ.問題はこの方程式が解をもつかどうかだ.本研究では変動する有限付値という背景のもとで数の幾何学を展開して,解の存在までは言えた.次の問題は,その解をNevanlinna-Cartan理論の離散化に持っていくことだが,それは現時点では未完成である.
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