研究概要 |
Nevanlinna理論は微積分の基礎の上に築かれる数学であるが,そこには数え上げ数学・数論幾何の性格が現れて,曲がった空間の微積分と考えられている微分幾何学の通常の方法論を働かせるのが困難である.正確に言えば,微分幾何の通常の概念を有効に働かせるには,Nevanlinna理論の持つ数え上げ数学・数論幾何的性格を上手に引き出して適切な場面設定をしなければならない.本研究ではNevanlinna理論の持つこうした背景を説明する幾何学の構築を目指した.指導原理は数え上げと数論幾何との類似性の追求である.射影的代数多様体への超越的正則曲線は数体上定義された射影代数多様体の有理点集合の類似物と思うことによって,微積分に基づくNevanlinna理論と不定方程式の整数解の理論に基づくDiophantros近似の間の類似性の辞書(Vojtaの辞書)が提唱された.本研究ではこの類似性研究をさらに深く追求した.Nevanlinna理論では内在的な概念である「正則曲線の微分」の「Diophantos類似とは何か?」という問いが本研究を推進した.離散的なDiophantos近似の世界では微分の概念は定義できない.そこでNevanlinna理論における微分の補題を「微分の定義式」とみなすというアイディアで「微分のDiophantos類似」を定義することを考える.すると,それは絶対的な概念ではなくなり,近似のターゲットを与えることによって始めて定義される相対的概念になる.Nevanlinna理論では絶対的な微分が,微分の補題を通じて相対的な振舞をするのである.本研究では数の幾何学を拡張して数体上の射影空間の場合に「分岐個数関数のDiophantos類似」を定義し,Schmidt部分空間定理を,それを含む形に拡張した.これをもとに,abc予想などのDiophantos近似の未解決問題に関する予想をいくつか提示することができた.「微分の定義」には代数方程式の根の重複度の概念が内在している.「重複度をどのように数えるか?」という問題は両理論にとって重要な問題である.実際,微分の概念の相対化を逆輸入すると,Nevanlinna理論における「微分の概念」においても「重複度が従うべき統計法則」という基本的問題が見えていなかったことが分かる.この問題への第一歩を踏み出した.
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