研究概要 |
本研究は走査型トンネル顕微鏡(STM)と近接場光学顕微鏡(SNOM)を用いて個々の半導体ナノ構造を識別し、発光分光およびトンネル分光によりその電子状態を解明することを目的としている。本年度得られた成果は以下のとおりである 1)AlGaAs/GaAs量子井戸へき開(110)面上の個々のGaAs井戸層をSTM像により識別し、STM探針からトンネル電子を注入することによって得られる各井戸層からの発光強度を探針-井戸層間距離の関数として計測した。その結果、探針位置に対する発光強度の減衰は2つの減衰長によって表されることがわかった。この2つの減衰長は探針から注入された電子の熱緩和距離と拡散距離に対応する。伝導帯のバンド構造を考慮したAlGaAs中の電子緩和の理論計算は、実験で得られた熱緩和距離をよく説明することがわかった。 2)GaAs/InGaAs歪量子井戸(100)面上に現れる表面ステップをSNOMにより識別し、フォトルミネッセンス(PL)像との対応関係を調べた。その結果、PL像中に観測される暗線と表面ステップは量子井戸界面に形成された同一の格子不整合転位に起因することがわかった。異なるIn組成比に対して暗線の<110>方向の綿密度を膜厚の関数と計測した結果、2つの臨界膜厚が存在し,それらはIn組成比に依存していることを見出した。現在、この臨界膜厚の物理的起源を検討している。 3)基板温度400℃で成長した正孔濃度が10^<18>(8160)1610^<19>cm^<-3>のMnをドープしたGaAs(110)面のSTM観察を行い、Mn原子が母体のGaAs結晶にどのように取り込まれているか調べた。STM像から個々のMnアクセプターを識別して、バルクのアクセプター密度を見積もった。その結果今アクセプター密度はホール測定から決定した正孔濃度をよく一致することがわかった。この結果は、400℃の成長温度ではMn原子は電気的に活性なアクセプターとしてGaAsに導入されることを示している。
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