研究概要 |
本年度は,擬1次元の白金錯体系およびニッケル錯体を超高速発光分光法で,2次元梯子系ナトリウムヴァナデートを過渡反射法で研究し,大きな成果が上がった.またあらたに,テラヘルツ分光装置を立ち上げた. (1)擬1次元ハロゲン架橋白金錯体 光誘起相転移のモデル物質であるこの物質(Pt-Br系)において,格子再配列現象の出発点である自己束縛励起子(STE)の波束の動きを映画化することに成功した.これにより波束形状の時間発展が初めて明らかになった.また格子緩和の初期過程は単純な断熱ポテンシャル上の波束運動としては理解できないことが明らかになった. (2)擬1次元ニッケル錯体 この物質は白金系と異なり基底状態がSDW状態である.最近定常発光の測定から格子緩和は小さいと報告されたが,ピコ秒の時間領域で大きな格子緩和を伴った励起状態が存在することを見出した.これは励起状態が更に格子再配列現象へと発展する可能性があることを示唆している. (3)ナトリウムヴァナデート 従来,酸化物系の光誘起相転移はほとんどペロブスカイト型の化合物で研究されてきたが,今回新たにスピン梯子系において光誘起相転移と予想される現象を発見した.スピンパイエルス的構造をもつ低温相における電荷秩序を光励起によって崩すことによって,高温相類似の状態が出現することを過渡反射測定により見出した.更に偏光特性から,光によって生成された状態は熱的に作られた状態と異なる可能性が示唆され,新しいタイプの光誘起相転移物質として注目される.
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