研究概要 |
本年度は,擬1次元の白金錯体系,2次元梯子系ナトリウムヴァナデートを中心に研究を進め,それぞれ大きな進展があった. (1) 擬1次元ハロゲン架橋白金錯体 光誘起相転移のモデル物質であるこの物質(Pt-Br系)において,格子再配列現象の出発点である自己束縛励起子(STE)の波束の動きをフェムト秒発光によって低温において詳しく調べた結果,これまでに見つかっていた115cm^<-1>の振動の他に,27cm^<-1>の低周波モードを新たに見出した.各フォトンエネルギーにおける時間波形に現れる波束の振動は非常に複雑であるが,この2つのモードの作る2次元の断熱ポテンシャル面上でリサージュ図形のような運動をしていると考えると理解できることが分かった.これは波束の2次元的運動を捉えた初めての例である. (2) ナトリウムヴァナデート 従来,酸化物系の光誘起相転移はほとんどペロブスカイト型の化合物で研究されてきたが,今回34Kに電荷整列とスピンパイエルスの複合相転移を示すスピン梯子系物質NaV_2O_5において新奇な光誘起現象を見出した.比較的弱い励起では,低温相で光励起状態の緩和に伴った部分的な秩序崩壊を起こす.この現象は約3psの遅い立ち上がり時間を持ち,局所的な温度上昇と対応していることが,時間分解ラマン散乱の結果からわかった.それに対して再生増幅パルスを使った強励起下では,150fs以下の非常に速い立ち上がりを持ち,かつ寿命の長い(数ns以上)応答が見られることがわかった.この速い応答のスペクトル形状,偏光依存性,温度依存性などから,その起源として,光誘起によるVイオンの価数の変化,電荷秩序の乱れ,絶縁体金属相転移などが考えられる.新しいタイプの光誘起相転移物質としての可能性に期待が持たれる.
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