研究概要 |
内径11Åの細孔が単純立方構造で配列したアルミノケイ酸塩ゼオライトのLTA結晶を利用して,配列カリウムクラスターを作成した.この系では電子相関の効いた多体電子系が形成される.しかも,そこに閉じ込められるs電子密度はクラスター当たりゼロから10個程度まで大幅に制御することが出来る.特に,カリウムクラスター当たりのs電子数が2個を越えると強磁性(自発磁化)が突然現れる.この自発磁化の発現機構として,これまで,クラスターの1p軌道を占有するs電子における軌道縮退によって反対称交換相互作用が飛躍的に増大し,反強磁性配列したスピンが大きくキャントするモデルを提案してきた.そこで,詳細なμSR実験を行い,その結果を2種類のミュオンサイトを仮定して解析した結果,スピンキャントモデルで予想される磁場分布とそのダイナミクスが反映されている事がわかった.特に,縦磁場効果において低磁場ではデカップリングが観測されないと言う奇妙な実験結果を旨く説明する事ができた.また,フェルミコンタクトによる初期非対称性の低下が,弱い縦磁場で回復するという現象は,低磁場でのスピンキャント磁化過程と比較して十分説明しうる現象である事がわかった.さらに,超強磁場における磁化過程の測定を行ったところ,中程度までの磁場では従来の解釈を裏付ける結果が得られたが,強磁性を示す試料の強磁場磁化過程においては,キュリー定数から予想される磁化を越えてしまうという新奇な現象を発見した.これをスピン軌道分裂したクラスターの1p軌道における準位交差と軌道磁気モーメントの増大という新しいモデルを導入して解釈を試みた.
|