Si/SiGe量子井戸中に形成された非常に小さい電気抵抗を持つシリコン2次元電子系に対して、低温下における磁気特性および輸送特性を調べた。シュブニコフ・ドハース振動の解析より得られたスピン偏極率は、磁場の絶対値(ゼーマン分離エネルギーに比例)に対して完全偏極にいたるまで直線的に増加した。この結果は、他のグループによりGaAsの電子系で観測されていた平行磁場に対するスピン偏極率の非線形な増加が、2次元系の普遍的な物理から来るものではなく、GaAsのバンド構造に起因する効果であることを示唆する。また、今回のヘテロ接合試料で得られたスピン帯磁率は、以前、岡本らがSi-MOSに対して測定した結果とコンシステントであった。移動度または抵抗値がスピン帯磁率に大きく影響しないことが示唆される。一方、抵抗の温度特性に関しては、Si-MOSと異なり、スピン偏極状態においても金属的振る舞いが観測されるが、これに関して内部自由度と不規則性に関する相図を提唱した。また、画内磁場と電流方向に対する大きな異方性も観測した。 不純物効果によって安定化されたウィグナー固体が実現されていると考えている絶縁体相に関しては、Si-MOS試料とGaAs正孔系試料を用いた測定を行っている。本年度は、希釈冷凍機中の試料回転機構に対して大きな改良を行い、数ケルピンの高温領域と100ミリケルピン以下の極低温領域との間を10分程度の時間で往復できるようにした。これにより活性化エネルギーの測定を迅速にできるようになった。また、試料の回転に伴う発熱も大きく軽減された。
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