Si-MOSFETやSi/SiGeヘテロ構造に作られたシリコン2次元電子系およびGaAs/AlGaAsヘテロ構造に作られたGaAs 2次元正孔系においては、強相関とスピン自由度に起因する興味深い現象が期待される。以下に、本研究で得られた成果を列挙する。 1)希釈冷凍機に試料回転機構を組み込み、磁場の角度依存性などのデータを迅速に測定できるシステムを開発した。 2)スピンを完全偏極させると、Si-MOSFETにおいては金属相は消失することが知られていたが、電子移動度が非常に高いSi/SiGeヘテロ接合試料においては、高磁場中でも金属相が生き残ることがわかった。系の内部自由度と不規則性をパラメーターとした金属相出現条件に対する相図を提唱した。 3)ウィグナー固体が基底状態と期待されるSi-MOSFET絶縁体相において、磁気抵抗効果の詳細な測定を行い、他のグループが主張していた強磁性状態が基底状態ではないことを明らかにした。 4)絶縁体相における磁気抵抗効果の測定を相関の弱いGaAs電子系と強相関系であるGaAs正孔系に対して行い、強相関シリコン2次元系で見られた活性化エネルギーの振動が強相関系特有の現象であることを明らかにした。 5)GaAs正孔系の絶縁体相において巨大な正の磁気抵抗を観測した。シリコン2次元系では見られないことからスピン・軌道相互作用が重要であると考えられる。 6)Si/SiGeヘテロ接合2次元電子系に対して、ミリ波領域のサイクロトロン共鳴と電子スピン共鳴の実験を行った。電子スピン共鳴信号は、電子加熱によるものではなくスピン偏極率の減少によって理解され、電子スピン共鳴が2次元電子系のスピン状態を探るための強力なツールとなることが明らかになった。
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