研究概要 |
研究実績の概要は以下のとおり. 本年度も昨年度に引き続き,ABリングと量子ドットを複合させた系での量子コヒーレンスの研究を行った.昨年度発見したFano効果に関して,より詳細な実験データと理論的解析を行い,複素数のFanoパラメーターの描像を確立した.また,新しいタイプのFano効果として,リングを構成しない量子細線に結合した量子ドットによるT型のFano効果を見出した. 量子ドット内のスピン状態によって,リング全体のコヒーレンスがどのように変化するかを調べた.クーロン振動ピークの左右でのAB振幅の変化の仕方が低磁場と高磁場で明瞭に異なることを見出し,量子ドット内に孤立スピンが存在する場合,スピン反転散乱によってデコヒーレンスが発生することを実験的に示した.孤立スピンが存在することの証拠として近藤効果を測定した.また,近藤効果によりコヒーレンスが回復することが期待されるが,その実験的検証は今後の課題である. 固体中での電子スピンの保持の実験を開始した.高移動度2次元正孔系を作製し,希薄強磁性半導体の(Ga, Mn)Asよりスピン注入を試みた.電極間隔1μmの試料では,磁気抵抗に明瞭なヒステリシスが現れ,スピン偏極が少なくとも1μm以上にわたって保持されていることがわかった.非磁性半導体超構造へのスピン偏極キャリア注入によって電気伝導にこれほど大きな影響が出るという実験結果は初めてのものであり,超微細構造中でのスピン偏極キャリア研究の有力な舞台となる可能性がある. このスピン偏極正孔が,可干渉性を保ったコヒーレントな伝導をしているのかどうかは,今後の課題である.
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